「いかに自分の生を肯定するか」不安な時代を心健やかに生き抜くためのヒント

ニーチェを読んだことはありますか?

10年ほど前の、没後100年時にもブームになっていましたが、ここ最近、某書籍のなかなかの売れ具合(某書籍については筆者自身は読んだこともありませんので、ここではコメントはしません。)が影響してか、街中の書店でポップや平積みなどをよく目にします。
筆者は大学時代にドイツ文学を専攻し、ニーチェについても講義を受けていましたが、当時学習した記憶も残念ながら風化の一途。。。
そこで自身の復習も兼ね、「ニーチェの思想って結局どんなもの?」について、はじめの一歩の超入門ノートとして書き留めておこうとおもいます。

注意

  • ※本ノートでは、ニーチェの思想のうち、価値顛倒部分について主に触れています。価値創造部分を含め、このノートでは書ききれない点については、少しずつ別のノートを立てて書き出していこうとおもっています。
  • ※本ノートを書くにあたっては、『ニーチェ入門/竹田青嗣(ちくま新書)』を参照のうえ、引用もしています。本書は大学時代の講義の参考書と指定されていたものであり、入門書として非常にわかりやすい一冊です。

ニーチェをサマると結局何なの?

「なんで自分だけこんな目に。。。」
「そもそもあいつが○○だから、そのせいで…」
「ぼくが/わたしが願ってもできないことを、どうしてあのひとが×××…」

日常生活の中でこんな不満や鬱積を誰しも抱えたことがあるのではないかとおもいます。
こうした悩みは、なにも現代人だけのものではありません。人類史始まって以来、人間が昔も今も抱えてきたもので、そんなダークな状況にどっぷり浸かって抜け出せなくなってしまったら。。
考えただけでこわくなってきますね。

こうした状況に陥ることからの脱却方法あるいは回避策として、ダークな世界で身動きが取れなくなってしまっている状態に対して、既成の枠組みを外す「視線変更」を与え、よりよい人生を生きることを促そうとしたのがニーチェです。

では、ニーチェはどうやって「視線変更」をしようとしたのでしょうか?
既存の枠組みのなかでの受け身な生き方ではなく、「生を肯定的に生きよう」という考えに転換する思想とはどんなものなのでしょうか?

ヒント

  • ※ぼくは/わたしは肯定的に生きてるよ!という充実した人生を送られているかたにとっては、過去の歴史を一緒に振り返ってみる機会になれば幸いです。

視線変更前:キリスト教世界

視線を「変更」するのですから、当然、変更前の状態というのがあったわけです。
ニーチェはどんな状態に視線変更を与えようとしたのでしょうか。

ニーチェが生きた時代は19世紀後半です。
それまで何世紀にもわたって、ヨーロッパにおいて考えられてきた人間的な価値というのは、「キリスト教」「道徳」「真理」という3つの僧侶的評価様式に基づくものでした。
この3つをベースとしてつくられた枠組みが、ニーチェが徹底的に批判した世界でした。

<ニーチェ前(視線変更前)の世界>

キリスト教や、道徳・真理を説いた近代哲学は、支配された人間や弱者が、自分のみじめな現実を打ち消そうとして生み出した「禁欲主義的理想」であったこと。
禁欲状態(欲が満たされない抑圧された状態)から生まれるのは、強者や幸せそうに見える者たちへの否定的な力(=ルサンチマン)であること。
そしてこの、抑圧された否定的な力であるルサンチマンを利用して、ルサンチマンを内向きに方向転換させ、支配する側として制度化に成功した者。
こうした枠組みが定義した人間的な価値の一切、「キリスト教」「道徳」「真理」を徹底的に疑い、根本から否定して、あたらしい人間観へ転換しようとしたのがニーチェでした。

視線変更:ニーチェの示す世界

前項で見てきたように、それまでのすべての価値を徹底的に疑ったのがニーチェでした。では既成概念を否定したあとはどうするか?
価値を顛倒したわけですから、それに代わる新しい価値の創造にニーチェは取り掛かります。

「いかに自分の生を肯定できるか」。
「何のために」ではなく、「いかに」生きるかを自分自身で選んでいくか。そこにニーチェが追い求める、人間観があります。

ニーチェが徹底批判した3つの僧侶的評価対象を並べて、それらに対してニーチェがどういったあたらしい価値を探ろうとしたかを見てみましょう。  
抑圧からの解放、解放のために既成概念を取り払う視点を打ち立てること、そして人間の自然性を活かす状態に導くこと。こうしたことが上記から読み取れ、これらすべては本質的な人間性に基づいた価値という、新しい方向へ向かおうとしています。

新しい価値の創造

批判することにのみ留まっていたとしたら、ニーチェはこれほど後世にまで大きく影響を残さなかったはずです。徹底した批判の後にニーチェが導き出したものが、新しい価値の創造に向けての2大テーマ、「超人」と「永遠回帰」という思想です。

「超人」と「永遠回帰」の思想の詳細については本ノートでは述べません(ごめんなさい、また別のノートで!)が、大まかに言えば、いかにしてルサン チマン(抑圧された状態から生まれてしまう羨みやねたみなどの負の力)とそこから現れるニヒリズム(どうしようもないという諦め。虚無感。)を捨て去るこ とができるか。そのための戦略が、「超人」と「永遠回帰」の思想であるといえます。

ルサンチマンを持たない人間は、現実の矛盾をいったん認めた上で、自分の力において可能な目標を立て、あくまで現実を動かすことを意欲します。これ に対してルサンチマンを抱いた人間は、現実の矛盾を直視したくないために、願望と不満の中で現実を憂い、心の内で否認することに情熱を燃やします。

そうした、ルサンチマン的、キリスト教会的発想から抜け出し、「苦悩にもかかわらず、生を是認する」という観念が、ニーチェ思想の出発点となったのでした。

おわりに

ニーチェ思想の柱は次のとおりです。

ポイント

  • 1.ルサンチマン批判
    2.これまでの一切の価値の顛倒
    3.ニヒリズムの克服~価値の創造

本ノートでは、1と2について主に述べてきました。
3についてはまた別の機会に書いてみたいとおもいます。

ニーチェの出発点となったのは、「苦悩にもかかわらず、生を是認する」という観念です。
現代社会を生きる我々にも、さまざまな悩みや問題がありますね。文明の発達や科学の進歩がもたらしたものは、決してよいことばかりではなかったかもしれません。にもかかわらず、それらは断罪されるべきではなく、是認されるべき存在だというのがニーチェ思想の根本です。

筆者は現在、ドイツ文学を学んでいた学生時代からは考えられない業界に身を置いています。
昔は考えられなかったほどの情報にまみれ、流れの 速さに時には翻弄されつつ、これまで心身ともに健康にやってこれているわけですが、それはニーチェの思想に少しでも触れる機会を得たこと、そしてその強烈 さがなんとなくでも身体に染み込み養われていた結果であるのではないかと思ったりするのでありました。
みなさんも、これを機にニーチェを読んでみてくださいね。ただし、難解な思想の森のなかに迷い込まないように気をつけてください。。。!

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